日本全国に数あるうどんの中でも、「五大うどん」と呼ばれる5つの麺は、食文化や歴史の面で特に高い評価を受けてきました。
讃岐・稲庭・五島・水沢・氷見──。
それぞれの土地が育んだ個性には、麺の太さやコシだけでなく、風土や食の知恵が宿っています。本記事では、五大うどんの魅力と特徴を調理師の視点でわかりやすく解説します。
五大うどんとは?
五大うどんとは歴史性・知名度・文化的背景・品質の高さなどから評価されてきた、日本を代表する5つのうどんの総称です。
讃岐(香川)
稲庭(秋田)
五島(長崎)
水沢(群馬)
氷見(富山)
の5種類が挙げられそれぞれが地域の風土や食文化と深く結びついて発展してきました。
同じ「うどん」でありながら、原材料の扱い・製法・麺の太さ・食感・だし文化には大きな違いがあり、その多様性は日本の食文化の豊かさを象徴しています。五大うどんを知ることは、麺の違いを楽しむだけでなく、地域の暮らしや歴史を味わうことでもあるのです。
讃岐うどん(香川県)

五大うどんの代表格ともいえるのが香川県の讃岐うどんです。
小麦粉・塩・水だけを使った素朴な麺ながら、しっかりとしたコシと弾力が特徴。
噛むほどに小麦の香りが広がり、のどごしの良さとともに“食べ応え”が楽しめます。
讃岐うどんはもともと香川県の温暖な気候と豊富な塩が生んだ食文化。
「釜玉うどん」「ぶっかけうどん」「ざるうどん」など、茹でたてを手早く食べるスタイルが多く、素材の良さを最大限に引き出しています。
だしは、いりこ(煮干し)や昆布、醤油をベースにしたやさしい旨みが基本。
現代では“セルフうどん”文化としても全国に広まり、香川の食の象徴となりました。

現役和食調理師のヒント
讃岐うどんは、麺そのものを味わう料理。コシの強さに加え、だしの香りと温度のバランスを大切にしています。
稲庭うどん(秋田県)

秋田県の稲庭うどんは五大うどんの中でも“上品さ”が際立つ存在です。
手延べ製法によって生まれるなめらかな食感と透き通るような艶が特徴で、口に入れた瞬間にスッとほどける繊細なのどごしが魅力。讃岐の「力強さ」と対照的な、しなやかさを味わう麺と言えます。
稲庭うどんは、古くは藩政時代に武家への献上品として発展した歴史を持ち、現在でも職人の手作業による製法が受け継がれています。乾麺で流通しているため保存性が高く、一年を通して品質が安定するのも特徴のひとつです。食べ方は、麺の個性が映えるつけうどんやざるうどんが定番。上品な出汁やごま風味のつゆとも相性が良く、麺そのものの香りと伸びの良さを楽しめます。

現役和食調理師のヒント
稲庭うどんは“力で食わせない麺”。温度が低い料理でも味がぼやけにくく、冷たいうどんで真価を発揮します。
五島うどん(長崎県)

長崎県・五島列島で受け継がれてきた五島うどんは、素朴でありながら深い味わいを持つ手延べうどんです。最大の特徴は、生地を延ばす際に使用する椿油。麺が適度にコーティングされ、なめらかな口当たりと伸びの良さが生まれます。細めの麺でありながらコシがあり、噛むと小麦の香りがふわりと広がります。
五島列島は海風が強く湿度の高い土地柄で、麺づくりには丁寧な管理が欠かせません。厳しい自然環境と職人の知恵が、五島ならではのうどん文化を育ててきました。
代表的な食べ方は、煮立った鍋に麺を入れてゆで汁ごと味わう「地獄炊き」。あご出汁(飛魚出汁)につけて食べるスタイルが定番で、素朴でやさしい旨みを存分に引き出します。

現役和食調理師のヒント
五島うどんは、余計な主張をしない上品な麺。強い具材よりも、だしと向き合う料理ほど真価が出ます。
水沢うどん(群馬県)

群馬県・伊香保温泉の水沢地域で作られる水沢うどんは、清らかな“水”を原点とするうどんです。麺は透き通るような色と上品なつやを持ち、なめらかでつるりとした口当たりが特徴。噛むとほどよい弾力があり、讃岐ほどの強いコシではなく、歯切れの良さと清涼感を味わう麺です。
水沢うどんの歴史は古く、水沢寺(天台宗)に参拝する人々への振る舞いが起源と言われています。地域の湧水と職人の丁寧な手仕事によって受け継がれ、現在も限られた生産者による伝統的な製法が守られています。食べ方はざるうどんが定番。ごまダレ、あるいは上品な出汁つゆでシンプルに味わうのが一般的で、麺そのものの透明感と清らかな風味が際立ちます。

現役和食調理師のヒント
水沢うどんは“雑味のない麺”。具を足しすぎず、温度とつゆの香りで食べると輪郭がはっきりします。
氷見うどん(富山県)

富山県・氷見で受け継がれる氷見うどんは手延べ製法を用いた麺で、強いコシとしなやかな伸びが共存するのが最大の魅力です。麺を延ばしては寝かせる工程を何度も繰り返すことで、グルテンの組織が整い、噛むほどに力強さと弾力が感じられます。乾麺でありながら存在感が強く、一口目のインパクトがはっきりした麺です。
氷見は海風と湿度が入り混じる土地で、麺づくりには繊細な温度管理が欠かせません。その環境と職人の経験が合わさり、独自の“ハリと腰”が育まれてきました。食べ方は温冷どちらでも成立する万能型。温うどんにしても麺が伸びにくく、ざるや釜あげでも、噛み応えと香りがしっかり残ります。

現役和食調理師のヒント
氷見うどんは“一本で料理になる麺”。出汁を添えるのではなく、麺と出汁を合わせる感覚で仕上げるとうまくいきます。
五大うどんの魅力と、食べ比べる楽しさ
五大うどんは同じ小麦から生まれる料理でありながら、土地の風土・水・歴史・製法の違いによって、まったく異なる表情を見せます。讃岐の力強さ、稲庭の上品さ、五島の素朴さ、水沢の清らかさ、氷見の存在感──。
それぞれに“理由のある個性”があり、その背景を知ることで味わいはより深くなります。
食べ比べを通して、自分の好みを知るのもひとつの楽しみ方。旅先で出会う一杯は、文化や歴史との出会いでもあります。五大うどんを入り口に、日本の麺文化をもっと自由に、もっとおいしく味わってみてください。

現役和食調理師のヒント
うどんは、麺を「食材」として見るか「料理」として見るかで印象が変わります。麺そのものを味わうのか、出汁と合わせて完成させるのか。五大うどんは、その違いを教えてくれる存在です。
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