鱧の骨切りとは?調理師が解説する目的と技術|自宅でできるのか

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鱧を食べたとき、口の中に小骨が当たった経験はないでしょうか。

鱧には約3,500本の小骨があるといわれています。そのままでは骨が多くて食べられません。そこで行われるのが「骨切り」です。骨を抜くのではなく、皮一枚を残して包丁を入れ、骨を細かく断ち切る技術です。

鱧の骨切りは一寸(約3cm)に24回包丁を入れる。
間隔にすると約1.3mmが基本です。

調理師として25年、この作業をしてきました。この記事では骨切りが何をしている技術なのか、なぜ家庭では難しいのか、そして骨切り済みの鱧を買うときに何を見るべきかを解説します。

鱧の骨切りとは

鱧は小骨が非常に多い魚です。その数は約3,500本とも言われ、一般的な魚とは比べものになりません。しかも、この小骨は身の中に細かく散らばっています。アジやサンマのように骨抜きで一本ずつ抜くことができず、包丁で身から外すこともできません。

骨を「抜く」のではなく「切る」

鱧の骨は抜くのではなく切ります。皮を残したまま、身の側から細かく包丁を入れ、骨を短く断ち切っていく。これが骨切りです。骨は身の中に残りますが、口に当たらない長さまで刻まれているため、そのまま食べることができます。

骨を取り除く発想ではなく、食べられる状態まで細かくするという発想の技術です。

骨切りをしないとどうなるか

処理をしていない鱧は食べられたものではありません。噛むたびに小骨が口に当たり、喉に刺さる危険もあります。湯引きにしても焼いても、骨の硬さは変わりません。長時間煮込めば軟らかくなる可能性はありますが、鱧をそうした調理法で食べることは一般的ではありません

だから鱧は骨切りをして初めて料理として成立します。鱧を扱う店ではこの作業ができることが前提になっています。

骨切りは鱧だけの技術ではありません。同じく小骨の多いうなぎも、しゃぶしゃぶで食べるには骨切りが欠かせません。詳しくはうなしゃぶとは?調理師が解説する「うなぎをしゃぶしゃぶできる理由」で書いています。

だから鱧は「骨切り済み」で流通する

市販されている鱧はほとんどが骨切り済みです。

スーパーの鮮魚コーナーでも通販でも骨切りされた状態で並びます。骨切りをしていない鱧が一般に売られることはまずありません。

つまり消費者が判断すべきなのは「骨切りをするかどうか」ではなく、その骨切りが適切に行われているかどうかです。この記事の後半で、その見分け方を解説します。

骨切りの技術|「一寸に24本」の意味

骨切りの目安として、よく「一寸に24本」と言われます。一寸は約3cm。それを24で割ると、間隔は約1.3mmになります。


1.3mmという間隔

1.3mmはほとんど隙間のない間隔です。それを一定に保ちながら、鱧一匹分を切り続けます。

しかし、実際に包丁を持っているときに24という数を数えているわけではありません。この数字は結果として現れるもので、目標として意識するものではないというのが私の理解です。

調理師
調理師

私が意識しているのは間隔です。広すぎれば骨が長く残って口に当たり、狭すぎれば身が細かくなりすぎて崩れます。その中間を手が覚えている間隔で刻んでいきます。


まな板に当たる音(感覚)は良い状態ではない

骨切りの音は「シャリシャリ」と表現され、良い骨切りの証とされることがあります。ただ、音には2種類あります。骨が切れる音包丁がまな板に当たる音(感覚)です。

まな板に当たったからといって、必ず皮まで切れているわけではありません。しかし、本来は当たる前に切り終えているものです。当たる音(感覚)が続いているなら、包丁が下りすぎている合図と考えたほうがいいでしょう。

音が鳴っているかどうかではなく、音が鳴らない位置で止まっているかどうか。判断すべきはそこです。


皮一枚を残す感覚|力を外へ逃がす

骨切りの要点は皮を切らずに身と骨だけを切ることです。
鱧の骨切りをしていると、まな板に到達する直前で、それに近い感触が刃に伝わってきます。実際にはまだ当たっていない。しかし、あと少しで当たるという位置にいることが分かる。

このとき、そのまま力を下ろせば皮まで切れます。その手前で、力を外側へ逃がす。真下に押し切るのではなく、抜くように動かします。

言葉にすると単純ですがこれを1.3mm間隔で、鱧一匹分繰り返します。


熟練者と初心者の違いは「止める位置」

骨切りが上手い人と、そうでない人の差は速さではありません。

初心者はこの位置の感覚がつかめず、皮を切ってしまうか?骨を切らずに止めてしまうか?

慣れた人は当たる前に外側へ力を逃がす。まな板に到達する直前の感触を、刃を通して感じ取れるからです。同じ作業に見えても、判断している情報が違います。当たったことを確認して止めているか、当たる直前を察知して止めているか。この差が、皮一枚を残せるかどうかを分けます。

骨切りに使う包丁

骨切りには、専用の包丁があります。「鱧切り包丁」と呼ばれるものです。


鱧切り包丁の形

鱧切り包丁は、刃が長く、まっすぐで重い包丁です。

刃渡りは24〜33cm程度。鱧の身の幅を一度にまたげる長さがあります。刃線は直線的で、峰から刃先までがほぼ平行に近い形をしています。

この形には理由があります。骨切りは包丁を前後に引いたり押したりせず、斜め前に下ろして切る動作だからです。曲線のある刃だと下ろしたときに刃全体が同時に当たりません。まっすぐな刃だからこそ、一度の動作で身の幅を切り通せます。

重さも同じ理屈です。力で押し込むのではなく、包丁自体の重さを利用して切る。軽い包丁では力を入れて押し切ることになり、間隔も深さも安定しません。


出刃・柳刃で代用できるか

家庭にある包丁で骨切りができるかという疑問があります。

結論:できなくはないが、勧められない

出刃包丁=重さがあり、刃渡りが短く、刃線に反りがあります
鱧の身の幅を一度に切り通すには足りません。

柳刃包丁=刃渡りがありますが、刺身を引くための包丁なので薄く、軽い
斜め前に下ろして切る動作には向いていません。

どちらも「切れないことはない」。ただ、1.3mm間隔を保ちながら、皮一枚を残す深さで繰り返す作業に耐える形ではありません。鱧は一尾50〜60cm程度。1.3mm間隔で刻んでいけば、数百回の作業になります。その全てで同じ深さ、同じ間隔を保つ必要があります。

そもそも鱧切り包丁は鱧を扱う店以外にはまず置いていない包丁です。家庭に用意する種類のものではないと考えていいでしょう。

自宅で骨切りはできるのか

結論から言えば家庭で骨切りをするのは現実的ではありません。理由は3つあります。


自宅に専用の包丁がない

骨切り包丁は重く、まっすぐで、長い刃の包丁を前提にした作業です。
出刃や柳刃で代用しようとすると、力の入れ方も刃の当たり方も変わります。1.3mm間隔を数百回維持するには不向きです。鱧切り包丁を家庭に用意するというのも現実的ではないでしょう。鱧を扱う機会がどれだけあるかを考えれば、答えは明らかです。


まな板の条件が違う

私は家庭で骨切りをしたことがないのでこれは推測を含みます。ただ、店で使うまな板と家庭のまな板の違いを考えると、いくつか問題が出そうです。

まな板が軽いと逃げる
骨切りは包丁の重さで切る作業です。まな板が軽ければ、包丁を下ろすたびに動きます。位置が動けば、間隔も深さも安定しません。対策としてはまな板の下に濡れ布巾を敷いて固定することが考えられます。

まな板が薄いと、切りにくい
厚みのないまな板は包丁が当たったときの手応えが変わります。「まな板に到達する直前の感触」が薄い板だと分かりにくくなるはずです。特にプラスチックの薄いまな板は、刃が滑りやすく、皮まで切ってしまいそうな感覚があります。

まな板の長さが足りない
鱧は一尾50〜60cm。開いた身がまな板に収まりません。これは工夫の余地があります。全体を一度に乗せるのではなく、まな板に乗る範囲だけを扱い、少しずつずらしながら骨切りをしていく。手間はかかりますが、不可能ではないはずです。


骨切り前の鱧が手に入らない

そもそも、骨切りをしていない鱧が一般に流通していません。市販の鱧はほとんどが骨切り済みです。処理前の鱧を手に入れるには、専門の魚屋に頼むか、自分で釣るかになります。

つまり「家庭で骨切りをする」という状況自体がめったに発生しません。


失敗するとどうなるか

仮に道具と材料が揃ったとしてうまくいかなかった場合に何が起きるか。

切り込みが浅いと骨が長いまま残ります
食べたときに口に当たり、喉に刺さる危険もあります。骨切りをした意味がありません。

切り込みが深すぎると皮まで切れバラバラになります
湯引きにしても形が残りません。

間隔が不揃いだと部分的に骨が残ります
全体としては切れているように見えても、当たる場所には当たります。

そして、忘れてはいけないのが作業そのものの危険性です。骨切りは重い包丁を何百回も下ろす作業です。慣れない手つきで長時間続ければ、手を切ります。魚は滑りますし、疲れてくれば刃の位置も狂います。

調理師
調理師

料理として失敗するだけならやり直せますが、怪我は取り返しがつきません。家庭で骨切りを試すことは調理師として勧められません。

骨切りの精度は、買う前に分かるのか

ここまで骨切りの技術について書いてきました。では、買う側はその精度をどう判断すればいいのか。先に結論を言います。買う前には分かりません。


切り込みの深さは、買う前には見えない

骨切りの成否を決めるのは、切り込みの深さです。皮一枚を残して身が完全に切れているか。それとも身がつながったままか。ここが分かれ目になります。

しかし、パック詰めされた状態では切り口を広げられません。冷凍品ならなおさらです。表面から見える切り込みの間隔は分かっても、深さは見えない

調理師
調理師

「等間隔に切り込みが入っているから大丈夫」とは言えません。間隔が揃っていても、深さが足りなければ骨は切れずに食べたときに口に残ります。


調理の直前なら確認できる

買った後、調理する前になら確認できます。切り口を指で軽く広げてみてください。

  • 良い骨切り
    切り口が開き、皮だけが残って身が完全に切れている
  • 良くない骨切り
    広げても皮が見えず、身がつながったまま

身がつながっている部分は、骨も切れ残っています。食べたときに口に当たります。これは事前の判断にはなりませんが、次に同じ店で買うかどうかの判断材料にはなります


湯引きにすれば、一目で分かる

もうひとつ確実な方法があります。湯引きにすることです。骨切りが適切なら、湯にくぐらせた身は花のように開きます。加熱すると、骨切りの出来が可視化されます。

  • 開かない → 切り込みが浅い
  • 崩れる → 深すぎる
  • きれいに開く → 適切

事前に判断できるのは「誰が骨切りをしたか」だけ

切り口が見えない以上、買う前に判断できるのは作り手の情報だけです。鱧の骨切りには、大きく2つの流れがあります。

  • 加工場でまとめて処理されたもの
  • 鱧を扱う店の職人が処理したもの

スーパーのパック商品では、どちらか分からないことがほとんどです。産地表記はあっても、骨切りの工程までは書かれていません。

一方、通販では骨切りの工程を明示している店があります。「職人が一尾ずつ骨切りをしている」と書いてあれば、少なくともその工程に責任を持っているということです。

産地は鱧そのものの品質の目安になりますが、骨切りの精度とは別の話です。両方が明示されている店を選ぶのが、現時点で取れる最も確実な方法だと思います。→ 鱧しゃぶのお取り寄せ|調理師が骨切りと産地で選ぶ淡路産セット

骨切りした鱧の食べ方

骨切りができていれば、鱧はさまざまな料理に使えます。代表的なものを挙げます。


湯引き(落とし)

鱧といえばまずこれです。骨切りした鱧を熱湯にくぐらせると、切り込みが開いて花のように身が反り返ります。これを氷水で締めて、梅肉や辛子酢味噌でいただきます。

骨切りの出来がいちばん分かりやすく出る料理です。切り込みが浅ければ身が開かず、深すぎれば身が崩れます。きれいに開いた湯引きは、骨切りが適切だった証拠でもあります。

確実な手順
まとめて茹でると加熱にムラが出ます。確実なのは一切れずつ処理する方法です。

  1. 湯を沸騰させる
  2. 網じゃくしに鱧を皮目を下にして乗せる
  3. 沸騰した湯の表面に皮目だけをつける(5秒程度)
  4. 網から外して湯に落とす(4秒程度)
  5. すぐに氷水へ

皮目を先に茹でるのは、生臭さを抜くためです。

鱧の臭みは主に皮にあります。先に皮だけを湯に当てておくと、この臭いが落ちます。全体を同時に入れると、皮から出た臭いが身にまわってしまう。順番を分けるのは、そのためです。

秒数は目安です。湯の量、鱧の厚み、切り身の大きさで変わります。身が白く開いた瞬間が引き上げどきと覚えておけば、大きく外しません。

長く入れると身が硬くなり、旨味も湯に逃げます。


鱧しゃぶ

出汁にくぐらせて食べる方法です。湯引きとの違いは、出汁ごと味わえることです。鱧から出た旨味が出汁に移り、それを野菜や〆に使えます。湯引きが鱧そのものを楽しむ料理なら、鱧しゃぶは鱧を含めた鍋全体を楽しむ料理です。

湯引きとは扱いが違います。
鱧しゃぶでは皮目を先に当てるといった手順は必要ありません。箸で持ってそのまま出汁にくぐらせ、身が開いたら引き上げます。

温かいまま食べる料理なので氷水で締めることもしません。同じ「湯にくぐらせる」でも、目的が違えば手順も変わります。鱧しゃぶに合う具材15選|玉ねぎ以外に何がある?


焼き・天ぷら

加熱調理にも向きます。照り焼き・蒲焼きは骨切りした身にタレを絡めて焼きます。切り込みにタレが入るので、味がのりやすくなります。

天ぷらは衣をつけて揚げます。切り込みが開いた状態で揚がるため、食感が軽くなります。

調理師
調理師

鱧の天ぷらには「塩」がよく合います。さっぱりと食べたいときは「梅肉」を添えるのもおいしく食べれるのでおすすめです。

いずれの場合も、骨切りが甘ければ骨が口に当たります。加熱で骨が柔らかくなるわけではないので、生食でも加熱でも、骨切りの精度は同じように問われます。


鱧料理は「骨切りありき」

ここまで挙げた料理はどれも骨切りを前提としています。鱧は骨切りをして初めて食材になる。逆に言えば、骨切りさえできていれば、あとは扱いやすい魚です。身に癖がなく、味も上品なので、和洋どちらの味付けにも合います。だからこそ、買うときに骨切りの状態を見ることが大切になります。

まとめ|骨切りを知ると、鱧の選び方が変わる

鱧の骨切りについて、要点を整理します。

技術について

  • 鱧には約3,500本とも言われる小骨があり、抜くことができない。だから「切る」
  • 目安は一寸に24本、間隔にして約1.3mm
  • 皮一枚を残して切る。まな板に当たる直前で力を外へ逃がす
  • 熟練者と初心者の差は速さではなく、包丁を止める位置

家庭でできるか

  • 専用の包丁がなく、代用も難しい
  • まな板の条件も違う
  • そもそも骨切り前の鱧が流通していない
  • 重い包丁を何百回も下ろす作業なので、怪我のリスクがある

家庭で試すことは勧められません。

買うときに見るべきこと

  • 買う前に骨切りの精度は分からない。切り口の深さは見えないため
  • 事前に判断できるのは「誰が骨切りをしたか」だけ
  • 調理の直前なら、切り口を広げて確認できる
  • 湯引きにすれば一目で分かる

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この記事を書いた人
現役の和食調理師/おかだ けんいち(調理歴25年以上)
和食の世界で25年以上。旬の食材や家庭でできる調理のコツを、やさしく、わかりやすくお届けしています。料理がもっと楽しく、おいしくなるきっかけになれば嬉しいです。
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