「鶏もも肉をカットして、さあ焼こうと思ったら……皮だけ全部つながっていて、持ち上げると『のれん』みたいにズラリ。あの瞬間、本当にガッカリしますよね。
包丁を何度も往復させて身はボロボロ、まな板の上は脂でギトギト。挙句の果てには、キッチンで一人『イーッ!』と叫びたくなるようなストレス。そのお気持ち、痛いほどよく分かります。
実は、鶏肉の皮がスカッと切れないのには、明確な理由があります。
私は調理師として25年以上、毎日何百枚もの鶏肉を捌いてきましたが、実はプロの現場でも『ある法則』を無視すると、鶏皮はとたんに牙を向いてくるんです。
この記事では、そんなブヨブヨ動く鶏皮に翻弄されないための「プロ直伝の切り方のコツ」を詳しく解説します。
もし、この方法を試してもまだ切れないのだとしたら……。それはあなたの腕のせいではなく、道具の限界かもしれません。
毎日の料理をもっと明るく、一瞬で終わらせるための『最後の手』まで、包み隠さずお伝えしますね。」
なぜ鶏肉の皮だけがつながるのか?「イライラ」の正体

「身は切れているのに、皮だけがつながって数珠つなぎになる……」 あの独特のイライラには、実は科学的な理由があります。鶏肉は他の食材と違い、包丁の天敵とも言える要素が揃っているんです。
鶏皮は食材の中でトップクラスに切りにくい
包丁の刃が滑りやすい「弾力」と「脂」の性質をプロ視点で解説します。
- ゴムのような「弾力」
鶏皮はコラーゲンが豊富で、非常に強い弾力を持っています。切れない包丁で上から押すと、皮は切れる代わりに「伸びて逃げる」だけ。まるでゴム板をなまくらなカッターで切ろうとしているような状態です。 - 刃を滑らせる「脂」のバリア
皮と身の間にある脂は、包丁の刃先にとって強力な潤滑油になってしまいます。この脂が刃先にまとわりつくと、せっかくの鋭さが死んでしまい、皮の表面をツルツルと滑ってしまうのです。
あなたがやりがちな「NGな切り方」
皮を上にする、上から力任せに押し切るなど、初心者が陥る罠を整理しました。
- 皮を「上」にして切っている
一番多い間違いがこれです。ブヨブヨと不安定な皮を上にして切ると、刃先が皮の上で踊ってしまい、肝心の「切り口」が決まりません。これではプロでも苦戦します。 - 真上から「グイッ」と押し切る
「切れないなら力で!」と上から押し付けるのは、身を潰して旨味(肉汁)を逃すだけの行為です。鶏皮は垂直な力には強いですが、横方向の「引き」には弱いという性質を忘れてはいけません。 - 包丁の「真ん中」だけで切ろうとする
包丁の刃の平らな部分(真ん中)だけで切ろうとすると、皮に食い込むきっかけが作れません。一番鋭い「角」である刃先を使わないのは、武器の半分を捨てているようなものです。

現役和食調理師のヒント
私も若い頃、皮を上にして力任せに切って、身をボロボロにした苦い経験があります。でも、鶏肉の弱点を知ってからは、余計な力は一切いらなくなりました。次の章では、その弱点を突く具体的なテクニックをお教えしますね。
調理師が教える!鶏皮を確実に切るための3つの鉄則

プロの現場では、何十枚、何百枚という鶏肉をスピーディーに処理しなければなりません。そこで私たちが無意識にやっている「鶏皮を攻略する基本のキ」を3つに凝縮しました。
皮目を「下」にしてまな板に密着させる
「皮を上にして、中身の身を確認しながら切りたい」……その気持ちは分かります。でも、それが最大の落とし穴です。
- 皮を「重し」にする
皮を下にすると、肉自体の重みで皮がまな板にピタッと張り付きます。こうすることで、ブヨブヨと逃げ回る皮を「固定」できるんです。 - 狙いがブレない
身の方から刃を入れると、柔らかい肉を通り抜けた刃が、最後に一番硬い「皮」をまな板との間で挟み撃ちにする形になります。これが、最も力が伝わりやすい最短ルートです。
「刃先(切っ先)」を引っ掛けるように使う
包丁全体の刃を一度に当てようとしていませんか?それでは力が分散してしまいます。
- 点での突破口を作る
包丁の中で最も鋭いのは、先端の「切っ先」です。まずはこの切っ先を、皮の端に「カリッ」と引っ掛けるイメージで刺し入れます。 - 最初の一歩がすべて
一度、皮に小さな「突破口」さえ開いてしまえば、あとはそこから裂くように刃が進んでくれます。包丁全体を押し付けるのではなく、まずは「点」で攻めるのがプロの技です。
「押し切り」厳禁!大きく手前に引いて切る
野菜を切るときのように、真上からトントンと叩く「押し切り」は、鶏皮には全く通用しません。
- 「引く力」で繊維を断つ
刺身を引くときのように、包丁の根元から先端まで、刃の長さをフルに使って手前に「スーッ」と引き抜いてください。 - ノコギリではなく「カミソリ」
何度も前後にギコギコ動かすのはNGです。一回の手前への引きだけで切り離すのが、断面を一番美しく、かつ肉汁を逃さないコツ。引き切ることで、皮の強い繊維が驚くほど鮮やかに断ち切れます。

現役和食調理師のヒント
実はこれ、プロの調理場では1年目に叩き込まれる基本中の基本なんです。この3つを意識するだけで、今までの苦労は何だったのかと思うほど、スッと刃が入る感覚が味わえるはずですよ。
【重要】皮を下にして引いても切れない…その原因は?

「教わった通り、皮を下にして、引いて切ってみた。……それでもやっぱり切れない!」 もし今、あなたがそう感じているなら、そこから先はもう「技術」の領域ではありません。実は、プロの世界でも「弘法筆を選ばず」は通用しないのが現実なんです。
技術でカバーできる限界は「刃の入り」まで
プロの私がやっても、切れない包丁では身がボロボロになるという事実。
よく「プロなら安物の包丁でも使いこなすんでしょ?」と言われますが、答えは半分NOです。 確かに「切り方」で多少はカバーできますが、刃先が丸まってしまった包丁を使うと、どうしても余計な力が入ります。
- 身が潰れて旨味が逃げる
切れない包丁で無理やり切ろうとすると、肉の繊維を「断つ」のではなく「潰す」ことになります。切った後にまな板が肉汁でビショビショになるのは、旨味が全部逃げ出している証拠。これは調理師として一番悲しい瞬間です。 - 断面がガタガタになる
どれだけ丁寧に引いても、刃が入らなければ何度も往復させることになり、断面はノコギリで切ったようにボロボロになります。
「プロがやってもダメなものはダメ」。そう割り切ることも、料理上達への近道です。
あなたの腕ではなく「包丁の寿命」かもしれません
25年現場に立って分かった、道具に頼るべきタイミングの判断基準。
包丁にも「寿命」があります。ここで言う寿命とは、捨てどきのことではなく「今のままでは使えない状態」のことです。以下のサインが出ていたら、あなたの腕を疑うのではなく、道具を疑ってください。
- トマトが「スッ」と入らず、皮が凹む
- 玉ねぎを切ると、以前より涙が出るようになった(細胞を潰している証拠です)
- 鶏皮の上を、刃がスケートのように滑る
特に3つ目の「鶏皮が滑る」状態は、刃先の微細なギザギザが完全に失われているサイン。これは、砥石で本格的に研ぎ直すか、あるいは「もっと長く切れ味が続く素材」の包丁に買い替えるタイミングです。

現役和食調理師のヒント
私は25年、道具の手入れを欠かしたことはありません。なぜなら、道具をケチって料理の味を落としたり、指を切るリスクを負ったりするのが一番損だと知っているからです。
もし今の包丁に限界を感じているなら、それはあなたが『もっと料理を上手く作りたい』と願っている成長の証ですよ。
ストレスをゼロにする!調理師が本気で勧める「鶏皮が吸い付く包丁」
「道具を変えるだけで、これほど料理が楽になるのか」。そう実感していただける、プロの視点で厳選したアイテムを紹介します。
家庭用ならこれ一択!切れ味が持続する「関孫六 ダマスカス 牛刀」
なぜこの材質(V金10号)が鶏皮に向いているのか?
私が家庭用として、あるいは料理好きの知人に必ず勧めるのが、この「V金10号(VG10)」という高級ステンレス鋼を使った包丁です。
- 「硬さ」が鶏皮を制す
鶏皮が切れない最大の理由は、刃先がすぐに丸まってしまうこと。V金10号は非常に硬い金属なので、鋭い刃が長く持続します。一度刃が入れば、鶏皮が吸い付くようにスッと切れる快感を味わえます。 - 錆びに強く、手入れが楽
プロが使う「鋼(はがね)」の包丁は、数分放置しただけで錆びますが、これはステンレス製。現場ほどこまめに手入れができない家庭のキッチンこそ、この「錆びにくさ」と「切れ味」の両立が不可欠です。

現役和食調理師のヒント
この包丁を一度使うと、今までの包丁がまるで『おもちゃ』だったと感じるはずです。特に鶏肉を調理する際、余計な力が不要になるので、指先の疲れが劇的に減りますよ。
今の包丁を蘇らせたいなら「貝印 関孫六 ダイヤモンド&セラミックシャープナー」
「まだ今の包丁を捨てたくない」「研ぎに出すのは面倒」という方には、このシャープナーを救世主として提案します。
- 3段階の工程で「プロの研ぎ」を再現
ただ刃を削るだけの安いシャープナーとは違い、粗さを変えて3段階で仕上げるため、刃先が驚くほど滑らかになります。 - 30秒で復活
鶏肉を切る直前に、溝に数回滑らせるだけ。それだけで、滑って仕方がなかった鶏皮に「カリッ」と刃先が掛かるようになります。

現役和食調理師のヒント
本当は砥石で研ぐのが一番ですが、家庭では難しいのも事実。このシャープナーは、簡易的ながらもしっかりと『角』を立ててくれるので、忙しい夕飯前の強い味方になります。
10ヶ月待ってでも手に入れるべきか?現役の調理師がKISEKI:(キセキ)包丁の正体を分析
まとめ
道具一つで毎日の料理は「暗い」から「楽しい」に変わる
料理は毎日のことです。鶏皮がつながらない、ただそれだけのことで、キッチンに向かう足取りは驚くほど軽くなります。
25年調理場に立っていて思うのは、「上手い人ほど、道具を味方にしている」ということ。
今回ご紹介したコツと道具を組み合わせて、ぜひ「あのイライラ」から解放されてください。スカッと皮が切れる瞬間の快感、ぜひ体験してほしいです!

現役の和食調理師/おかだ けんいち(調理歴25年以上)
和食の世界で25年以上。旬の食材や家庭でできる調理のコツを、やさしく、わかりやすくお届けしています。料理がもっと楽しく、おいしくなるきっかけになれば嬉しいです。
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