見た目は優雅でも、味わいは力強い――。
鯉(こい)は古くから日本各地で親しまれてきた淡水魚の代表格です。
春から初夏にかけて旬を迎え、身が締まりながらも脂がのるこの季節の鯉は格別。定番の「鯉の洗い」や「鯉こく(味噌汁)」など、地域の食文化にも深く根づいています。
「生で食べても大丈夫?」
「臭みはあるの?」
という疑問を持つ人も多いはず。
この記事では、25年以上の経験を持つ現役和食調理師が、鯉の旬の時期・おいしい食べ方・栄養・生食の注意点まで、やさしく丁寧に解説します。
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鯉の旬 ~おいしい時期と理由~
鯉は一年を通して流通していますが、最もおいしい旬は冬(11〜2月)。
この時期は水温が下がるため、身が引き締まり脂がのります。一方、夏場(6〜8月)は産卵期にあたるため、味がやや落ちる傾向があります。
地域によっては春にかけて「鯉のぼり」の季節料理としても親しまれ、長野県や山形県などの内陸地方では一年を通して郷土料理として食されています。
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季節ごとの旬の食材をもっと詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。▶ 旬の野菜・魚介【年間カレンダー】

現役和食調理師のヒント
旬は冬(11〜2月)が基本。寒い時期は代謝が落ち、脂が身に蓄えられ、旨味が強くなります。
鯉(こい)とは~特徴と味わい~

鯉(こい)はコイ科コイ属の淡水魚で、原産地はユーラシア大陸。
日本でも古くから河川や湖に生息し、食用・観賞用の両方で広く養殖されてきました。奈良時代にはすでに食文化があり、『日本書紀』にも記録が残っています。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 体長 | 一般的に30〜60cm。養殖や長寿個体では1mを超えることもあります。 |
| 寿命 | 20年以上生きる長寿魚として知られます。環境が良ければ40年以上生きる例も。 |
| 色 | 野生種は黒褐色〜緑褐色ですが、観賞用の「錦鯉」は赤・白・金など多彩な体色。 |
| 生息環境 | 河川・湖沼などの淡水域に生息。泥底を好み、雑食性で水草や小動物を食べます。 |
味と食感
身は脂の少ない白身で加熱するとふっくら柔らかく、旨味と甘みが感じられます。
川魚特有の香り(泥臭さ)はありますが、養殖鯉は清水で育てられるため臭みが少なく上品な味わいです。
代表的な料理には次のようなものがあります。
- 鯉こく(味噌仕立ての汁物)
- 鯉の甘露煮
- 鯉の唐揚げ
- 鯉のあらい(刺身) ※生食用養殖鯉のみ使用可

おかみさんの一言
「鯉こくの香りが台所に広がると、あぁ冬だなぁって感じます。昔は川沿いの旅館で、囲炉裏の横でいただいたものです。
鯉は生で食べられる? ~安全性と注意点~
鯉は淡水魚のため寄生虫(肝吸虫など)や食中毒菌(腸管出血性大腸菌など)のリスクがあります。厚生労働省や地方自治体でも「淡水魚の生食は避け、十分に加熱すること」を推奨しています。
- 天然の鯉や衛生管理が不十分なものを生食するのは危険です。
- 生で食べる場合は「生食用」として流通している養殖鯉を使用しましょう。
- 伝統料理の「鯉のあらい」は清水で一定期間育てた養殖鯉を氷水で締めることで臭みを取り、殺菌効果を高めた調理法です。
- 安全面を考慮するなら鯉こく・甘露煮・唐揚げなどの加熱調理がおすすめ。熱を通すことで臭みが消え、旨味がより引き立ちます。
魚介類や野菜を食べるときのリスクが気になる方はこちらのページで【最新版】食中毒の種類・症状・原因一覧をわかりやすく解説しています。
鯉と相性の良い食材

| 食材 | 組み合わせの理由・使い方例 |
|---|---|
| 味噌 | 鯉こくに使う定番調味料。旨味とコクで川魚特有の香りを和らげる。 |
| 生姜 | 煮付けや甘露煮の臭み消しに効果的。香りが食欲をそそる。 |
| ごぼう | 煮込み料理で旨味を吸い、香りの相乗効果を生む。 |
| 山椒 | 甘露煮や煮物の風味付けに。爽やかな香りが脂の強さを中和。 |
| ネギ | 鯉こくや唐揚げの薬味に。甘みと香りで味が引き立つ。 |
| 酢味噌 | 鯉のあらいに添えることでさっぱりとした後味に。 |
| 大根 | 煮物で一緒に炊くと旨味が染み、食感の対比も楽しめる。 |

現役和食調理師のヒント
川魚特有の香りを活かすか、和らげるかで組み合わせは変わります。冬場の鯉こくは、味噌とごぼうの組み合わせが鉄板です。
鯉とよく合う調理法

| 調理法 | 理由 |
|---|---|
| 煮物 (鯉こく) | 冬の寒鯉は脂がのり、旨味が汁や煮汁に溶け出す。臭みも抑えられる。 |
| 唐揚げ | 高温で揚げることで骨まで食べられ、香ばしさが増す。 |
| 蒸し料理 | ふっくらと仕上がるが、臭み消しの工夫が必要。 |
| 焼き物 | 香ばしさが出るが、骨が多く身離れしにくい。 |
| 刺身 (あらい) | 衛生管理された生食用鯉に限り提供可。淡水魚特有のリスクあり。 |
| 酢の物 | あらいと酢味噌でさっぱり食べられるが、生食と同様の注意が必要。 |
| 蒸し寿司 | 加熱済みの鯉を使えば旨味と酢飯の相性が良い。 |

現役和食調理師のヒント
家庭で楽しむなら煮物か唐揚げがおすすめ。生食は必ず専門店や信頼できる産地のものにしましょう
目利き~鮮度の見分け方~

鯉は鮮度の良し悪しで味や臭みが大きく変わる魚です。購入時は次のポイントを確認しましょう。
| チェックポイント | 良い鯉の特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| 目 | 黒目が澄み、透明感がある | 白く濁っているものは鮮度低下 |
| 体表 | 鱗がしっかりつき、ぬめりが透明で少なめ | ぬめりが黄ばみ、臭いが強いものは避ける |
| ヒレ | ピンと張りがある | 垂れて傷が多いものは弱っている証拠 |
| 腹部 | 弾力があり、軽く押すとすぐ戻る | 柔らかくブヨブヨしているものは鮮度が落ちている |
| 匂い | 泥臭さが少なく、軽い川魚の香り | 強い泥臭や異臭がある場合は要注意 |
選び方のコツ
- 活き鯉が最良:生きたまま販売されているものは、鮮度・味ともに抜群です。
- 加工済み(切り身・下処理済み)を選ぶ場合は、身に白く透明感があり、血合いが鮮やかな赤色のものを選びましょう。
- 養殖鯉は泥臭さが少なく、調理初心者にも扱いやすいです。購入時は清水で一定期間育てた「清流鯉」などの表示を確認すると安心です。

現役和食調理師のヒント
鯉は淡水魚なので、水質管理や処理の丁寧さが味を左右します。泥抜きされた養殖鯉は臭みが少なく、家庭でも扱いやすいですよ。
鯉の栄養素~食品成分表~
こい 養殖
可食部100g当たり
| 栄養素 | 水煮 | 生 | 単位 |
|---|---|---|---|
| 廃棄率 | 15 | 50 | % |
| エネルギー | 190 | 157 | ㎉ |
| 水分 | 66.3 | 71.0 | g |
| タンパク質 | 19.2 | 17.7 | g |
| 脂質 | 13.4 | 10.2 | g |
| 食物繊維(総量) | – | – | g |
| 炭水化物 | 0.2 | 0.2 | g |
| ナトリウム | 47 | 49 | ㎎ |
| カリウム | 330 | 340 | ㎎ |
| カルシウム | 13 | 9 | ㎎ |
| マグネシウム | 22 | 22 | ㎎ |
| リン | 180 | 180 | ㎎ |
| 鉄 | 0.6 | 0.5 | ㎎ |
| 亜鉛 | 1.8 | 1.2 | ㎎ |
| 銅 | 0.06 | 0.05 | ㎎ |
| マンガン | 0.01 | 0.01 | ㎎ |
| ヨウ素 | – | – | ㎍ |
| セレン | – | – | ㎍ |
| クロム | – | – | ㎍ |
| モリブデン | – | – | ㎍ |
| ビタミンA(レチノール) | 3 | 4 | ㎍ |
| ビタミンA(β-カロテン) | – | – | ㎍ |
| ビタミンD | 12.0 | 14.0 | ㎍ |
| ビタミンE(トコフェロールα) | 2.0 | 2.0 | ㎎ |
| ビタミンK | – | – | ㎍ |
| ビタミンB1 | 0.37 | 0.46 | ㎎ |
| ビタミンB2 | 0.17 | 0.18 | ㎎ |
| ナイアシン | 3.1 | 3.3 | ㎎ |
| ビタミンB6 | 0.11 | 0.13 | ㎎ |
| ビタミンB12 | 7.5 | 10.0 | ㎍ |
| 葉酸 | 9 | 10 | ㎍ |
| パントテン酸 | 1.51 | 1.48 | ㎎ |
| ビオチン | – | – | ㎍ |
| ビタミンC | 1 | – | ㎎ |
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鯉の英語・漢字表記

| 項目 | 表記 |
|---|---|
| 英語表記 | Carp |
| 発音記号 | /kɑːrp/ |
| カタカナ読み | カープ |
| 漢字表記 | 鯉 |
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