「魚へんに冬」と書いて、鮗(ヒイラギ)。その名前から冬が旬だと思われがちですが、実は板前として25年以上魚に触れてきた私が一番おすすめしたいのは、身が充実し、脂がのる5月から8月にかけての時期です。
ヒイラギは小さな魚ですが、その身には驚くほど濃厚な旨味が詰まっています。ただ、「ヌメリが強くて扱いづらい」「トゲが鋭くて指に刺さるのが怖い」という理由で、敬遠されがちなのも事実です。
そこでこの記事では、プロの視点からヒイラギの本当の美味しさを見極める目利きのポイントや、家庭で簡単に、そして安全にできる「ヌメリとトゲ」の攻略法を詳しく解説します。
「小魚と侮るなかれ」。この記事を読み終える頃には、スーパーで見かけたヒイラギが、食卓を彩る最高のご馳走に見えてくるはずです。
ヒイラギの旬:漢字の「鮗」に隠された、本当の食べ頃

ヒイラギの旬は5月から8月
ヒイラギは、魚へんに冬と書く「鮗」という漢字が使われるため、冬が旬だと思われがちです。しかし、板前として25年以上魚に触れてきた経験から言うと、ヒイラギの本当の美味しさが際立つのは、産卵を控えて身が充実する5月から8月にかけての時期です。
特に5月から6月の「走り」の時期は、小ぶりながらも身がふっくらとしており、甘辛い煮付けにすると骨離れも良く、白身の濃厚な旨味を存分に味わえます。独特のヌメリの中に隠されたその実力は、旬の時期であれば高級魚にも引けを取りません。
この時期にヒイラギと並んで旬を迎える、板前おすすめの魚介類についても詳しくまとめています。
▶5月の旬な魚介類一覧|初夏の訪れを告げる鮮やかな味覚
▶6月の旬な魚介類一覧|梅雨時期に旨味が深まる注目の魚たち
鮗(ひいらぎ)とは ~解説~

- 名前の由来は「柊の葉に似てトゲがあるから」と言われる
- 大きい物でも15cmと小さい魚
- 体表は分泌液でヌルヌルしている
- ギィギィと鳴く
- 市場にはあまり流通しない
- 分泌液を塩で揉んで洗い流してから調理する
- 新鮮なヒイラギは、透明感のある白身
板前直伝!ヒイラギの濃厚な旨味を引き出すおすすめ調理法

ヒイラギは「煮てよし、揚げてよし、干してよし」の万能な白身魚です。それぞれの調理法のポイントを解説します。
定番の「煮付け」(ふっくらと濃厚な味わい)
ヒイラギ料理の王道といえば、やはり煮付けです。
- 特徴: 小ぶりな身に甘辛いタレがよく絡み、白身の甘みが引き立ちます。
- プロのコツ: 煮崩れを防ぐため、強火で一気に炊き上げるのがポイントです。また、先ほどご紹介した「生姜」を多めに入れることで、特有の香りが上品な風味へと変わります。
香ばしい「唐揚げ」(骨まで美味しく)
高温でカリッと揚げることで、ヒイラギの魅力を丸ごと味わえます。
- 特徴: 皮目はパリッと、中の身はフワフワとした食感のコントラストが楽しめます。
- プロのコツ: 小さな個体なら、じっくり二度揚げすることで小骨までサクサクと食べられるようになります。お子様のおやつや、お酒の肴にも最適です。
旨味が凝縮された「干物・塩焼き」
高知県(ニロギ)などで愛される、通好みの食べ方です。
- 特徴: 干すことで水分が抜け、ヒイラギ本来の強い旨味がギュッと凝縮されます。
- プロのコツ: 軽く炙る程度で脂がじゅわっと浮き出てきます。シンプルに塩だけで味わうことで、旬の時期(5月〜8月)の身の良さがダイレクトに伝わります。
骨まで柔らかい「南蛮漬け」
小骨が気になる方や、さっぱり食べたい夏場におすすめです。
- 特徴: 揚げたヒイラギを酢に漬け込むことで、骨が柔らかくなり、頭から丸ごと食べられます。
- プロのコツ: 玉ねぎや人参のスライスをたっぷり添えてください。ヒイラギの出汁を吸った野菜もまた、絶品のご馳走になります。
プロが教える下処理のコツ
ヒイラギを劇的に美味しくする「ヌメリとトゲ」の攻略法
「ヒイラギは下処理が大変」と思っていませんか?実は、25年以上魚を扱ってきた経験から言うと、コツさえ掴めば短時間で綺麗に、そして安全に仕上げることができます。このひと手間で、料理の仕上がりが格段に変わります。
ヌメリ取りは「たっぷりの塩」と「揉み」が基本
ヒイラギの表面を覆う強烈なヌメリは、臭みの原因にもなります。これを一気に取り除く方法です。
- 塩もみ
ボウルにヒイラギを入れ、多めの塩を振りかけます。手で優しく、しかし全体に塩が行き渡るようにしっかり揉んでください。 - 洗い流し
ヌメリが浮き出てきたら、流水で一気に洗い流します。ザルの中で転がすように洗うと、効率よくヌメリが落ちます。 - プロのアドバイス
ヌメリが強い場合は、この工程を2回繰り返すと、驚くほどスッキリとした白身本来の味を楽しめます。
鋭いトゲは「キッチンバサミ」で安全に処理
ヒイラギの背びれと腹びれには、非常に鋭いトゲがあります。指に刺さると痛むため、家庭では無理に包丁を使わず、キッチンバサミを活用するのが一番安全です。
- 背びれ・腹びれのカット
ヒレの根元からハサミで切り落とします。 - 尾びれの形を整える
ついでに尾びれの先を少し整えると、盛り付けた時の見栄えが良くなり、お子様が食べる時も安心です。
「ツボ抜き」で形を崩さず内臓を取る
ヒイラギは身が薄いため、お腹を切ると形が崩れやすい魚です。
- プロの技
エラの間から割り箸やピンセットを入れ、内臓を絡め取るように引き抜きます。これで、煮付けにしても形が崩れず、美しく仕上がります。
お子様が食べる時のひと工夫
ヒイラギを唐揚げにする際は、下処理の段階で背骨に沿って深く切り込みを入れておくと、骨離れが良くなり、お子様でも格段に食べやすくなります。料理人として大切にしている「食べる人への配慮」を、ぜひご家庭でも試してみてください。
魚の小骨の取り方|簡単な骨抜き方法と子ども向け対策
プロの料理人が教える!新鮮なヒイラギの見分け方

25年以上、数多くの魚を扱ってきた経験から、最高の一匹を見分けるポイントを伝授します。ヒイラギは「小さくても旨味が濃い」のが魅力ですが、そのためには鮮度が命です。
銀色の輝きに注目
- 表面の光沢
全体が鏡のようにキラキラと銀色に輝いているものを選びましょう。 - くすみがないか
鮮度が落ちるとこの銀色の光沢が失われ、白っぽくくすんできます。
目の透明感
- 澄んだ瞳
目が黒く、クリスタルのように透き通っているものが新鮮です。 - 濁りはNG
目が白く濁っていたり、赤くなっているものは、水揚げから時間が経過しています。
身の厚みと張り
- 背中の盛り上がり
背中からお腹にかけて厚みがあり、丸々と太っている個体は脂がのっています。 - 弾力
触れた時に(可能であれば)指を押し返すようなしっかりとした弾力があるものが理想的です。
エラの色
- 鮮やかな紅色
エラの中が綺麗な赤色(紅色)をしていれば、血液の鮮度が保たれている証拠です。

現役和食調理師のヒント
ヒイラギ特有の強力なヌメリは、実は新鮮な個体ほどしっかり付いています。一見、扱いづらそうに見えますが、透明なヌメリに覆われているものこそ、白身の濃厚な旨味が詰まっている証拠です。
地方によってこんなに違う!ヒイラギの面白い呼び名
ヒイラギは、その特徴的な姿やヌメリから、全国各地でユニークな名前で親しまれています。地元のスーパーや市場で探す際の参考にしてください。
| 地方名 | 主な地域 | 由来・エピソード |
| ゼンメ | 愛知・三重 | 潮干狩りや釣りでもおなじみの呼び名です。この地域では煮付けの定番として愛されています。 |
| ニロギ | 高知 | 土佐の冬の味覚として有名です。高知では干物にして炙って食べるのが粋な楽しみ方です。 |
| トンマ | 九州 | 口を「ぽかん」と開けた顔が、少し間抜けに見えることから親しみを込めて呼ばれます。 |
| ギギ | 岡山・九州 | 釣り上げた時に、浮き袋を震わせて「ギイギイ」と鳴くことから名付けられました。 |
| ネコマタギ | 各地 | 「あまりに小さくヌメリが強いため、猫もまたいで通る」という冗談交じりの呼び名です。しかし、実際は猫も夢中になるほど旨味が濃い魚です。 |
地方名を知ることは、その魚の「一番旨い食べ方」を知ることでもあります。 例えば、高知で「ニロギ」として探せば、現地で愛される絶品の干物文化に出会えますし、愛知で「ゼンメ」として探せば、家庭ごとの秘伝の煮付けレシピが見つかります。
このように、名前の由来と一緒に「その土地でどう食べられているか」を一言添えるだけで、ブログ記事の深みがぐっと増します。
ヒイラギ(鮗)と相性抜群の食材一覧表
ヒイラギ(鮗)は、その独特の旨味と少しのクセを活かすことで、非常に奥深い料理になります。板前が選ぶ、ヒイラギの美味しさを引き立てる相性の良い食材をまとめました。
| 食材 | 料理のポイント |
| 生姜 | ヒイラギ特有の匂いを消し、風味を爽やかにします。煮付けには欠かせません。 |
| 山椒 | 煮付けの仕上げに振ると、白身の甘みが引き締まり、大人の味わいになります。 |
| 唐辛子 | 南蛮漬けやピリ辛の煮付けに。淡白な身にアクセントを加えます。 |
| ごぼう | 土の香りがヒイラギの脂とよく合います。一緒に煮ることで相乗効果が生まれます。 |
| 白ねぎ | 焼いたヒイラギと一緒に煮たり、吸い物の具にしたりすると甘みが引き立ちます。 |
| 玉ねぎ | 薄切りにして南蛮漬けに。ヒイラギの旨味を吸った玉ねぎは絶品です。 |
| すだち・かぼす | 唐揚げや塩焼きに。強い酸味がヒイラギの濃厚な旨味をさっぱりとさせます。 |
| 梅干し | 「梅煮」にすると、酸味で骨まで柔らかくなり、さっぱりと食べられます。 |
| 醤油・みりん | 甘辛く炊き上げる「煮付け」は、ヒイラギ料理の王道です。 |
| 酢 | 南蛮漬けや酢の物に。小骨が多い魚なので、酢の力で食べやすくなります。 |

現役和食調理師のヒント
ヒイラギは非常に旨味が強い反面、独特の磯の香り(人によっては少しクセに感じるヌメリの香り)があります。これを上品な美味しさに変えてくれるのが生姜です。煮付けにする際は、薄切りにした生姜を少し多めに入れることで、雑味が消えてヒイラギ本来の濃厚な白身の味を楽しむことができます。
ヒイラギの栄養素
ヒイラギの食品成分表|Verywell Fitより
| エネルギー | 100 ㎉ |
| タンパク質 | 20 g |
| 脂質 | 1 g |
| ナトリウム | 50 ㎎ |
| カリウム | 300 ㎎ |
| カルシウム | 10 ㎎ |
| マグネシウム | 20 ㎎ |
| リン | 150 ㎎ |
| 鉄 | 1 ㎎ |
| 亜鉛 | 0.5 ㎎ |
| 銅 | 0.05 ㎎ |
| セレン | 10 ㎍ |

現役の和食調理師/おかだ けんいち(調理歴25年以上)
和食の世界で25年以上。旬の食材や家庭でできる調理のコツを、やさしく、わかりやすくお届けしています。料理がもっと楽しく、おいしくなるきっかけになれば嬉しいです。
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