通販で牛肉を買うとき、多くの方が「A5」という文字を探します。等級が高いほど良い肉だと考えるからです。ただ、調理師として25年、現場で肉を扱ってきた立場から言えば、これが失敗のいちばん多い原因です。
A5は味の等級ではありません。柔らかさの等級でもありません。示しているのは「サシがどれだけ入っているか」という、それだけです。
そして、サシが多い肉は家庭のコンロで焼くと脂が制御できません。せっかく高い金額を出したのに、脂ばかりが出て肉が縮む。「思っていたのと違った」の正体はたいていここにあります。
この記事では、通販で牛肉を選ぶときに、調理師が実際に何を見ているのかを書きます。等級ではなく、用途と部位から選ぶ考え方です。
あわせて、ブランド牛が必要ない場面についても正直に書きます。すべての料理に高い肉が要るわけではありません。
- A5ランクが「味の等級ではない」理由
- 調理師が通販の肉で確認している4点
- 料理別・選ぶべき部位
- ブランド牛が要らない場面
- 用途別・どこで買うべきか
通販の牛肉で失敗する人は「等級」で選んでいます
通販サイトを開くとまず目に入るのが「A5等級」「最高級」「とろける霜降り」といった言葉です。値段も並んでいるので、つい「高いほうが良いのだろう」と考えます。
しかし、これが失敗の入り口です。
調理師として現場にいると「良い肉」という言葉を単独では使いません。必ず「何に使う肉か」とセットで考えます。ステーキに向く肉と、すき焼きに向く肉と、煮込みに向く肉は、それぞれ違うからです。等級は、この「何に使うか」をまったく教えてくれません。
高い肉を買ったのに美味しくなかった
通販で肉を買った人からよく聞く声が、これです。
「脂っこくて、半分も食べられなかった」
「思っていたより硬かった」
「焼いたら小さく縮んだ」
いずれも、肉が悪かったわけではありません。用途と肉が合っていなかっただけです。
サシの多い肉をフライパンで厚焼きすれば、脂は出ます。赤身の多い部位を強火で焼けば、繊維が締まって硬くなります。どちらも肉の性質どおりの結果です。
問題は通販サイトが「この肉は、この料理に向いています」とまでは書いてくれないことです。書いてあっても、たいていは「すき焼き・しゃぶしゃぶ・焼肉に」と全部並べてある。
選ぶ順番が逆になっている
多くの人は、こう選びます。
ブランドを決める → 等級を見る → 予算で決める → 届いてから、何を作るか考える
調理師は、逆から考えます。
何を作るか決める → 必要な部位とカットが決まる → その条件を満たす店を選ぶ → 予算に合うものを選ぶ
料理が先で肉は後です。この順番を守るだけで、失敗はほとんどなくなります。
逆に言えば「何を作るか決めずに、良い肉だけ買う」というのがいちばん危ない。届いた肉を前に、何を作るか考えることになるからです。
A5ランクは「味の等級」ではありません
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
A5という表示を見て「最高に美味しい肉」と受け取っている方が非常に多い。しかし、A5が保証しているのは、美味しさではありません。
A5が示しているのは、サシの量だけ
牛肉の等級は、アルファベットと数字の組み合わせで表されます。
- A・B・C=歩留等級。一頭からどれだけ肉が取れるかを示すもので、味とは無関係です
- 5・4・3・2・1=肉質等級。このうち最も重く評価されるのが「脂肪交雑(サシの入り方)」です
つまりA5とは、「一頭から取れる肉が多く、サシがしっかり入っている」という意味です。
そこに「味が良い」という判定は含まれていません。旨味成分の量も、香りも、後味も、等級では測られていない。測っているのは、見た目の脂の入り方です。
これは、格付けの仕組みを知っていれば当然の話です。ただ、通販サイトは「A5」を最上位のセールスワードとして使います。だから誤解が生まれます。
家庭のフライパンでA5を焼くと、どうなるか
実際に何が起きるか、書きます。
サシの多い肉は、加熱すると脂が溶け出します。フライパンに脂が溜まり、肉はその脂の中で加熱されることになる。焼いているのではなく、揚げているに近い状態です。
肉は縮み、表面はうまく焼き固まらず、切ると中から脂が流れ出ます。食べ始めの一口は確かに濃厚ですが、三口目には重くなる。200gのステーキを半分残す。これが実際によく起きることです。
厨房でA5のステーキを焼くときは炭火か温度が均一に保たれた鉄板を使います。溶け出した脂を落とす仕組みがあり、表面を一気に焼き固める火力がある。家庭のコンロには、そのどちらもありません。
肉が悪いのではなく、設備が違うのです。
A5が本領を発揮する料理、しない料理
では、A5はどこで活きるのか。
すき焼きと、しゃぶしゃぶです。
この二つは肉を薄く切りさっと火を通します。溶け出した脂は割下や出汁の中に入る。そして、その脂が旨味になります。脂は「捨てるもの」ではなく「使うもの」になる。
薄いので脂が出きる前に食べられる。口の中に残るのは脂のコクと肉の香りだけです。A5のサシはこの食べ方のために存在していると言っていい。
逆に、以下の料理では、A5を選ぶ意味がほとんどありません。
| 料理 | A5は? | 理由 |
|---|---|---|
| すき焼き | 向く | 溶けた脂が割下の旨味になる |
| しゃぶしゃぶ | 向く | 薄切りで脂が出きる前に食べられる |
| 肉吸い | 向かない | 脂が出汁に浮きすぎ、吸い物のキレが消える |
| 家庭でのステーキ | 向かない | 脂を制御できず、重くなる |
| 煮込み・カレー | 向かない | 長時間加熱で、サシの意味が消える |
| ローストビーフ | 向かない | 赤身の締まりが必要。サシが多いと崩れる |
家庭でステーキを焼くなら、A4の赤身寄りを
調理師として、はっきり書きます。家庭のフライパンでステーキを焼くなら、A5よりA4、それも赤身寄りの部位のほうが、はるかに美味しく焼けます。
脂が出すぎないので表面がきちんと焼き固まる。中まで火を入れても縮みにくい。最後の一口まで、重くならずに食べきれます。
そして、A4はA5より確実に安い。高い金額を出したほうが失敗する。牛肉にはそういう逆転が普通に起きます。
調理師が通販の肉を見るときの4点
等級を判断材料から外すと、では何を見るのか。私が確認しているのは、次の4点です。
①用途とカットが合っているか
最初に見るのは、部位ではなくカットです。
同じ肩ロースでも、すき焼き用の薄切りとステーキ用の厚切りではまったく別の商品です。届いてから切り直すことは、家庭ではまずできません。冷凍された薄切り肉を厚切りにすることは不可能ですし、厚い肉を家庭の包丁で均一に薄く切るのも、現実的ではない。
「すき焼き・しゃぶしゃぶ・焼肉に」と、複数の用途がまとめて書かれている商品には注意が必要です。すき焼き用としゃぶしゃぶ用では、適切な厚みが違います。しゃぶしゃぶはより薄く、すき焼きはやや厚い。両方に「使える」とは、どちらにも最適化されていないということでもあります。
用途が明記され、その用途専用にカットされている商品を選んでください。
②冷凍か、チルドか
冷凍そのものは悪ではありません。急速冷凍された肉は状態がよく保たれます。問題はどの料理で差が出るかを理解しているかどうかです。
冷凍と解凍を経ると細胞内の水分が氷の結晶になり、細胞膜を破ります。解凍したときに出てくるドリップはそこから流れ出た旨味です。
この差が出やすいのは加熱時間が短い料理です。
- 差が出る(冷凍に不向き)
しゃぶしゃぶ、肉吸い、たたき、レアのステーキ - 差が出にくい(冷凍でもOK)
すき焼き、煮込み、カレー、しっかり焼くステーキ
さっと火を通すだけの料理ではドリップが出た肉はパサつきます。逆に、割下や出汁でしっかり煮る料理なら、冷凍でも十分に成立します。
チルドは価格が上がり、日持ちもしません。全部チルドにする必要はない。用途で選び分けてください。
③産地・等級・部位が明記されているか
等級で選ぶなと書きましたが「等級が書かれていない」のは別の問題です。
産地、等級、部位。この3つが明記されていない商品は、調理の予測が立ちません。火の入れ方も、下処理の要否も、部位が分からなければ判断できない。
「国産牛」とだけ書かれた商品は和牛ではありません。国産牛と和牛は別のものです。国内で肥育されれば「国産牛」を名乗れますが、「和牛」は指定された品種にのみ使える表示です。
安さの理由が「国産牛だから」なのか「部位が需要の少ないところだから」なのかで、意味はまったく変わります。書いていない店は、書けない理由があると考えたほうがいい。
④誰が捌いているか
見落とされがちですが、実は差が出るところです。
一頭買いをして自社で捌いている店は、部位の状態を把握しています。「今回はこの部位の状態が良い」という判断ができる。逆にカット済みの肉を仕入れて販売しているだけの店は、届いた状態でしか出せません。
筋の処理、脂の削ぎ方、繊維に対する切り方。ここに手が入っているかどうかは、届いた肉を見ればすぐに分かります。筋が残っていれば、加熱したときにそこだけ縮んで反り返る。繊維に沿って切られていれば噛み切れない。
サイトに「一頭買い」「自社加工」「職人が捌く」と書かれているかを確認してください。書いてある店が必ず良いとは限りませんが、書いていない店より、判断材料が多いことは確かです。
料理別・選ぶべき部位
ここまでの話をまとめると、選ぶ順番はこうなります。作る料理を決める。必要な部位とカットが決まる。その条件を満たす店を探す。料理別に、何を選ぶべきかを書きます。
すき焼き・肉吸い
選ぶもの:肩ロース、リブロースの薄切り(2〜3mm)
すき焼きは割下に脂が溶け出すことで味が完成します。ある程度サシが入っている部位が向く。肩ロースは旨味と脂のバランスが良く、値段も現実的です。
ただし、肉吸いは事情が変わります。肉吸いは澄んだ出汁に肉を通す料理です。サシが多すぎると、脂が出汁に浮きすぎて、吸い物としてのキレがなくなる。すき焼きなら正解のA5が、肉吸いでは重すぎることがあります。
肉吸いには肩ロースの中でも赤身寄りのもの、あるいはモモの薄切りが向きます。脂は出汁のコクになる程度で十分です。
しゃぶしゃぶ
選ぶもの:肩ロース、リブロースのごく薄切り(1〜2mm)
すき焼きよりさらに薄いカットが必要です。厚みがあると、湯にくぐらせる数秒では火が通りきらず、かといって長く入れれば硬くなる。
しゃぶしゃぶ用として明記された商品を選んでください。すき焼き用の肉をしゃぶしゃぶに使うと、厚みが合いません。また、ドリップの影響が最も出る料理でもあります。可能ならチルド、または急速冷凍で解凍方法が明記されているものを。
ステーキ(家庭のフライパン)
選ぶもの:サーロイン、ランプ、イチボ。A4の赤身寄り。厚さ2cm前後
前章で書いたとおり、家庭のコンロでA5を焼くのは勧めません。脂を制御できないからです。
ヒレは脂が少なく柔らかいので、家庭でも扱いやすい部位です。ただし旨味は控えめで、値段は高い。「柔らかければ美味しい」と考えているなら、ヒレは期待外れになることがあります。
赤身の旨味を求めるなら、ランプやイチボのほうが満足度は高いと思います。
ローストビーフ
選ぶもの:モモ(内もも・外もも)、ランプ。塊肉
低温でゆっくり火を入れる料理なので赤身の締まった部位が向きます。サシが多いと加熱中に脂が溶けて肉が崩れ、切ったときに形が保てません。ここでも、A5は不向きです。ローストビーフに高いサシの肉を使うのは、もったいない使い方になります。
焼肉
選ぶもの:カルビ(バラ)、ミスジ、ハラミ。部位ミックスのセット
焼肉は、脂が落ちる調理法です。網や焼肉プレートで焼けば、余分な脂は下に落ちる。だからサシの多い部位も成立します。
ただし、家庭のホットプレートは脂が落ちません。フライパンで焼くのと同じ状態になります。サシの多い肉ばかりだと、途中で脂が溜まって煮えたようになる。ホットプレートなら、赤身の部位を混ぜてください。
煮込み・カレー・シチュー
選ぶもの:すね、カタ、バラ。ブランド牛は不要
長時間煮込む料理には筋やコラーゲンの多い部位が向きます。すねは硬い部位ですが、煮込めばゼラチン質が溶け出して独特のとろみと旨味になる。
ここに高い肉を使う必要はありません。詳しくは後の章で書きますが、煮込みではブランド牛の差はほとんど出ません。
部位別・一覧表

| 部位名 | 特徴 | 適した料理 |
|---|---|---|
| 肩ロース | 旨味と脂のバランスが良く、コクがある | すき焼き しゃぶしゃぶ 肉吸い |
| リブロース | 肉質がやわらかく霜降り豊か | すき焼き しゃぶしゃぶ |
| サーロイン | 柔らかく脂が甘い | ステーキ |
| ヒレ | 非常に柔らかく脂が少ない。旨味は控えめ | ステーキ カツレツ |
| モモ 内もも 外もも | 赤身が多く、しっかりした食感 | ローストビーフ 肉吸い 煮込み |
| ランプ | やわらかく赤身の旨味が強い | ステーキ ローストビーフ |
| カタ | 繊維質が多くやや硬めだが、旨味が濃い | 煮込み |
| すね | 筋が多くコラーゲン豊富 | 煮込み シチュー カレー |
| バラ うちばら そとばら | 脂が多く濃厚な味 | 焼肉 煮込み |
| ミスジ | 肩の一部。やわらかく霜降り入り | 焼肉 |
| イチボ | 赤身と脂のバランスが良い | ステーキ 焼肉 |
| カタバラ | 脂が多く濃厚なコク | 焼肉 煮込み |
サーロインとリブロース、どちらを選ぶべきか迷う方は多いです。比較はこちらにまとめました。▶サーロインとリブロースの違いを徹底比較
ブランド牛の違いは、どこに出るか
近江牛、松阪牛、米沢牛、伊万里牛。名前は聞いたことがあっても、何がどう違うのかまでは説明されないまま売られています。ここでは、味の優劣ではなく、制度と事実として何が違うのかを整理します。
ブランド牛の「定義」は、統一されていません
まず知っておくべきことがあります。
ブランド牛の名称を名乗る条件は産地ごとの団体がそれぞれ定めています。国が一律に決めているわけではありません。
つまり「等級A4以上でなければ名乗れない」ブランドもあれば「その地域で一定期間肥育されていれば名乗れる」ブランドもある。基準の厳しさは、ブランドによって違います。
「有名なブランド牛だから、必ず質が高い」とは言い切れないのは、このためです。同じブランド名でも、等級には幅があります。だからこそ、ブランド名だけでなく、等級と部位の表示を確認する必要があります。
主なブランド牛の特徴
| ブランド | 産地 | 傾向 | 向く料理 |
|---|---|---|---|
| 近江牛 | 滋賀 | サシが細かく入る傾向。日本三大和牛のひとつ | すき焼き しゃぶしゃぶ |
| 松阪牛 | 三重 | サシの量が多い。融点が低い脂として知られる | すき焼き しゃぶしゃぶ |
| 米沢牛 | 山形 | 赤身と脂のバランス型。等級基準はB3以上と幅がある | すき焼き ステーキ 普段使い |
| 伊万里牛 | 佐賀 | 赤身の締まりがある。ローストビーフに使われることが多い | ローストビーフ ステーキ |
日本三大和牛の位置づけについては、こちらで詳しく解説しています。▶日本三大和牛とは?近江牛・神戸牛・松阪牛の特徴と違い
用途によって、選ぶブランドは変わります
調理師として言えば、ブランドを先に決めるのは順番が逆です。
すき焼きをするなら、サシがしっかり入るブランドが向きます。溶けた脂が割下の旨味になるからです。近江牛や松阪牛はこの使い方に合います。
一方、ローストビーフを作るなら、サシの多い肉は向きません。加熱中に脂が溶けて、肉が崩れるからです。赤身の締まった伊万里牛のほうが、はるかに扱いやすい。
ステーキを家庭で焼くなら、赤身寄りのものを選ぶべきだと、前章で書きました。この場合も、サシの多いブランドを選ぶ意味は薄くなります。
「有名だから」ではなく、「この料理に向くから」で選ぶ。これがブランド牛の正しい使い方です。
脂の融点という考え方
もう一つ、あまり語られない話をします。
牛脂には融点があります。低いほど、口の中で溶けやすい。「口の中でとろける」と表現されるのは、この融点が低い脂です。
融点が低い脂は、常温でも柔らかい。逆に、融点が高い脂は、口の中に残る感じがあります。
ただし、これも料理次第です。しゃぶしゃぶのように、口の中で溶けることが前提の料理なら、融点の低さは強みになる。しかし煮込みなら、そもそも脂は溶け出して煮汁に入るので、融点は関係ありません。「とろける」という言葉に価値があるかどうかも、何を作るかで変わります。
ブランド牛が要らない場面
ここまでブランド牛の話をしてきましたが、調理師として正直に書いておきたいことがあります。すべての料理に良い肉が要るわけではありません。むしろ、高い肉を使う意味がない料理のほうが、家庭では多いくらいです。
煮込み・カレー・シチューでは、差が消えます
長時間の加熱は、肉の個性を平らにします。1時間、2時間と煮込むあいだに、サシは溶けて煮汁に出ます。繊維はほぐれ、肉そのものの食感は消える。残るのは、煮汁に移った旨味と、繊維がほどけた肉の塊です。
この状態でA5とA3を食べ比べてもはっきりした差は出ません。むしろ煮込みには、すねやカタのような、筋とコラーゲンの多い部位のほうが向いています。これらは等級の低い、安い部位です。
厨房でも煮込みに高級部位は使いません。もったいないからではなく、向いていないからです。
味付けが濃い料理では、意味が薄れます
牛丼、プルコギ、しぐれ煮、ビーフストロガノフ。
上記の料理は調味料の味が主役になる料理です。醤油、砂糖、味噌、香辛料。肉の繊細な香りは隠れます。ブランド牛の特徴は、脂の質と香りに出ます。それが調味料で覆われる料理では、差を感じ取ることはほぼできません。
牛丼にA5を使っても、美味しい牛丼にはなります。ただ、普通の肉で作った牛丼と、値段の差ほどの違いは出ません。
挽き肉・こま切れは、等級を気にしない
ハンバーグ、そぼろ、肉じゃが、炒め物。
細かくした肉は部位の個性が消えます。挽いた時点で繊維は断たれ、脂は全体に混ざる。ブランドの違いを味わうための構造が失われています。
ハンバーグを美味しくしたいなら、肉の等級を上げるより、脂の配合とこねる温度を管理するほうがはるかに効果があります。
ブランド牛が本領を発揮するのは、素材の味を食べる料理だけ
逆に言えば、ブランド牛の価値が出るのは、肉そのものを味わう料理です。
- すき焼き:脂が割下に溶け、それを味わう
- しゃぶしゃぶ:さっと火を通し、脂と赤身の香りを食べる
- ステーキ:塩と胡椒だけで、肉の味を食べる
- ローストビーフ:赤身の旨味を、低温でじっくり引き出す
- 肉吸い:澄んだ出汁に、肉の質がそのまま出る
共通しているのは、加熱時間が短く、味付けが薄いことです。肉を隠すものが、何もない。だから差が出ます。ここに当てはまらない料理を作るなら、スーパーの肉で十分です。無理にブランド牛を買う必要はありません。
毎日食べるものではない、ということ
ブランド牛は日常的に食べるものではありません。値段の問題だけでなく、脂の量の問題として、毎日食べる設計になっていない。
年に何度か。すき焼きをする日、誰かの誕生日、来客のある日。そういう日のために選ぶものです。逆に言えば、そういう日だからこそ失敗したくない。用途に合った肉を選ぶ意味はそこにあります。
用途別・どこで買うか
ここまで書いてきたとおり、選ぶ順番は「料理 → 部位とカット → 店」です。
順位をつけて「1位はここ」と言うことはしません。用途が違えば、選ぶ店も変わるからです。以下は、それぞれの店が何に向いているかという整理です。
私自身がすべての店から取り寄せて食べ比べたわけではありません。ここで書いているのは、各社が公開している情報(部位のラインナップ、カットの指定、加工体制、配送形態)を調理師の視点で選らんだものです。味の評価はしていません。
すき焼き・しゃぶしゃぶ・肉吸いなら|近江牛 カネ吉山本

選ぶ理由:部位とカットを指定して買えること
この記事で繰り返し書いてきたのは、「用途に合ったカットを選べ」ということでした。カネ吉山本は、一頭買いをして自社で捌いています。目利きから裁ちまでを自社で管理していると明記されている。
調理師としてこれは判断材料になります。カット済みの肉を仕入れて売る店と自社で捌く店では部位と厚みの選択肢が違ってくるからです。
すき焼き用の薄切りからステーキ用の厚切りまで、部位別・用途別に選べます。肉吸いに使うなら、赤身寄りの薄切りを指定できるかどうかが重要になります。
向いている人
- 作る料理が決まっていて、それに合う部位・カットを指定したい
- 贈答用として、包装や証明書まで含めて任せたい
向いていない人
- 普段使いの肉を安く買いたい(価格帯が上がります)
- 煮込み・カレー用の肉を探している(ここに近江牛は不要です)
家庭での焼肉・日常使いなら|やまなか家

選ぶ理由:家庭で使い切れる分量と価格帯
やまなか家は、東北産の牛肉・牛タンを中心に、家庭用のセットが揃っています。焼肉用のカット済み肉、ホルモン、輸入肉まで幅広い。価格帯が現実的で定期便もあります。
ひとつ注意点を書いておきます。家庭のホットプレートで焼肉をする場合、脂が下に落ちません。サシの多い部位ばかりだと、途中でプレートに脂が溜まり、煮えたような状態になります。赤身の部位を混ぜてください。
向いている人
- 家族で焼肉をする。日常的に使える肉を探している
- 牛タンを厚切りで食べたい
向いていない人
- 格式のある贈答品を探している
- 特定のブランド牛を指定したい
贈答・特別な日なら|松阪牛やまと

選ぶ理由:A5等級に絞っていること、贈答対応が整っていること
A5に絞るという方針は用途がはっきりしている店だということです。A5が向くのはすき焼き・しゃぶしゃぶです。家庭のフライパンでステーキを焼くつもりなら、A5は最適解ではありません。
贈答として送る場合は相手が何を作るかが分かりません。その意味でも、すき焼き・しゃぶしゃぶ用の薄切りを選ぶのが無難です。厚切りのステーキ肉を贈ると、相手の調理環境によっては持て余される可能性があります。
向いている人
- 贈答用。のし・化粧箱まで含めて任せたい
- すき焼き・しゃぶしゃぶで、サシを味わいたい
向いていない人
- 家庭のフライパンでステーキを焼きたい(A5は脂が制御できません)
- 赤身の旨味を求めている
赤身を味わうなら|肉のさかの(米沢牛)

選ぶ理由:赤身寄りの選択肢があること、価格帯が現実的なこと
家庭でステーキを焼くなら、A5よりA4の赤身寄りを、と前章で書きました。その条件に合う選択肢が取りやすい店です。
米沢牛は、ブランドの等級基準に幅があります。A5だけでなく、赤身寄りのものも「米沢牛」として流通する。これは、用途に合わせて選べるということでもあります。
希少部位の取り扱いもあり、家庭用パックも揃っています。
向いている人
- 家庭でステーキを焼く。脂より赤身の旨味を求めている
- 高すぎないブランド牛を探している
向いていない人
- とろけるサシを求めている
用途別・早見表
| 作りたい料理 | 選ぶべきもの | 候補 |
|---|---|---|
| すき焼き しゃぶしゃぶ | サシのある薄切り | カネ吉山本 松阪牛やまと |
| 肉吸い | 赤身寄りの薄切り | カネ吉山本 |
| ステーキ (家庭のコンロ) | A4赤身寄り、厚さ2cm | 肉のさかの |
| ローストビーフ | モモ・ランプの塊 | 伊万里牛 |
| 家庭での焼肉 | 赤身を混ぜたセット | やまなか家 |
| 贈答 | 薄切り・化粧箱対応 | 松阪牛やまと カネ吉山本 |
| 煮込み・カレー | ブランド牛は不要 | スーパーで十分 |
ローストビーフについては、伊万里牛を扱った記事でも解説しています。▶伊万里牛ローストビーフ通販|調理師が選ぶギフト・お取り寄せの基準
まとめ|等級より、用途に合っているか
この記事で書いてきたことを、整理します。
A5は、味の等級ではない
A5が示しているのは、サシの量です。美味しさでも、柔らかさでもありません。そして、サシの多い肉は、家庭のコンロでは脂を制御できません。すき焼き・しゃぶしゃぶなら正解ですが、フライパンで焼くステーキには向いていない。高い金額を出したほうが失敗する、という逆転が起きます。
選ぶ順番を、逆にする
ブランドや等級から入るのではなく、作る料理から入ってください。何を作るか決める → 必要な部位とカットが決まる → その条件を満たす店を選ぶ。この順番を守るだけで、通販の失敗はほとんどなくなります。
すべての料理に、良い肉が要るわけではない
煮込み、カレー、牛丼、ハンバーグ。これらにブランド牛を使っても、値段の差ほどの違いは出ません。長時間の加熱や濃い味付けが、肉の個性を消してしまうからです。ブランド牛が本領を発揮するのは、肉そのものを味わう料理だけです。すき焼き、しゃぶしゃぶ、ステーキ、ローストビーフ、肉吸い。加熱時間が短く、味付けが薄い。肉を隠すものが、何もない料理です。
だからこそ、その日は失敗したくない
ブランド牛は、毎日食べるものではありません。年に何度か、すき焼きをする日、誰かの誕生日、来客のある日のためのものです。回数が少ないからこそ、失敗が痛い。等級ではなく用途で選ぶ意味は、そこにあります。作る料理が決まっているなら、必要な部位とカットも決まっています。あとは、それを指定して買える店を選ぶだけです。
▼部位とカットを指定して買える
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