魚醤とは?発酵の仕組みと種類ごとの違いを調理師が徹底解説

魚醤とは?発酵の仕組みと種類ごとの違いを調理師が徹底解説 調味料

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魚醤と聞くと、独特の匂いから「発酵食品」というより「くさい調味料」というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。

実は魚醤は、味噌やぬか漬けと同じ、魚のタンパク質が微生物や酵素の力で旨味に変わる、れっきとした発酵食品なんです。この記事では調理師歴25年の私が、しょっつる・いしる・ナンプラーといった種類ごとの発酵方法の違いを、原材料と製法の視点から解き明かしていきます。

【結論先出し】この記事でわかること(魚醤の発酵の全体像)

先に結論からお伝えすると、魚醤の独特な匂いは腐敗ではなく、魚のタンパク質が旨味成分(グルタミン酸などのアミノ酸)に分解される、れっきとした発酵反応によるものです。「なんだか臭くて怖い調味料」というイメージ、正直まだ拭えていないという方も多いのではないでしょうか。

調理師として現場で魚醤やナンプラーを扱ってきた経験から言うと、この匂いの正体と発酵の仕組みさえ理解してしまえば、魚醤は味噌やぬか漬けと並ぶ、実に頼れる発酵調味料だと分かるはずなんですよね。

この記事を読むと、次のようなことがわかります。

魚醤がどのような工程で発酵し、旨味が生まれるのか
発酵と腐敗を分ける「塩分濃度」という科学的なポイント
しょっつる・いしる・ナンプラーなど、種類ごとの発酵方法と味・匂いの違い
魚醤の栄養面や体への影響について、プロ視点で見た実際のところ
料理での上手な使い方と、手元にないときの代用方法

一つずつ、順を追って見ていきましょう。

そもそも魚醤とは?発酵で生まれる旨味調味料

魚醤の基本|魚と塩だけで作られる発酵調味料

魚醤とは、魚介類と塩、この二つだけを原料にして長期間発酵させた調味料のことです。特別な添加物や酵母を加えなくても、魚と塩さえあれば作れてしまう、実にシンプルな調味料です。

原料になる魚は地域によってさまざまで、日本ではハタハタやイワシ、イカの内臓などが使われます。東南アジアではカタクチイワシが主流で、これがナンプラーの原料になっています。

魚に対して塩を20〜30%程度加えて漬け込むと、魚自身が持つ消化酵素と、周囲の微生物の働きによって、時間をかけてタンパク質が分解されていきます(この仕組みは次の章で詳しく解説します)。早いものでも半年、長いものだと2〜3年ほど熟成させるので、なかなか手間のかかる調味料だと感じませんか?

原料も工程もいたってシンプルだからこそ、使う魚の種類や塩分濃度、発酵期間によって、味や匂いに大きな個性が出てくるわけです。

世界と日本に広がる魚醤文化(しょっつる・いしる・ナンプラー)

魚醤は日本だけの調味料ではありません。世界中の沿岸部で、昔から独自に発展してきた発酵調味料なんです。

東南アジアではタイの「ナンプラー」、ベトナムの「ニョクマム」が有名ですし、ヨーロッパにも古代ローマ時代から「ガルム」と呼ばれる魚醤が存在していました。冷蔵庫のない時代、魚を長く保存しながら旨味も引き出せる魚醤は、世界各地の食文化に欠かせない存在だったわけです。

日本国内にも、地域ごとに個性豊かな魚醤があります。秋田県の「しょっつる」、石川県の「いしる(いしり)」、香川県の「いかなご醤油」は日本三大魚醤と呼ばれていて、それぞれ原料の魚も味わいも違います(詳しい違いは後ほどの章で比較します)。

現場でしょっつるやいしるを扱ってきた立場から言うと、同じ「魚醤」という括りでも、原料の魚が変われば香りも塩味の効き方もまるで別物になるので、侮れないんですよね。こうして並べてみると、魚醤は世界中の食文化に根付いた、いわば「塩の進化系」のような存在だと私は感じています。

魚醤はどうやって発酵する?製造工程を調理師が解説

魚醤はどうやって発酵する?製造工程を調理師が解説

魚のタンパク質がアミノ酸(旨味)に変わる発酵の仕組み

魚醤の旨味の正体は、魚のタンパク質が分解されてできたアミノ酸、特にグルタミン酸です。「魚を発酵させただけなのに、なぜこんなに旨味が強いのか」と不思議に思う方も多いのではないでしょうか。

その理由は、魚自身が持つ消化酵素(プロテアーゼ)と、塩水の中で働く微生物の力にあります。魚を丸ごと塩漬けにすると、内臓に含まれる消化酵素が自分自身の身やタンパク質を分解し始めます。これを「自己消化」と呼びます。味噌や醤油が麹(こうじ)の酵素の力を借りるのに対して、魚醤は魚自身が持つ酵素で分解が進む点が大きな違いなんですよね。

実際、しょっつるやいしるの伝統的な製法では、内臓ごと漬け込むケースが多く見られます。内臓には消化酵素が豊富に含まれているため、身だけを使うよりも早く、濃厚な旨味を引き出せるからです。

こうして時間をかけて分解が進むことで、魚のタンパク質はグルタミン酸をはじめとするアミノ酸の集合体に変わり、あの独特の濃厚な旨味が生まれるわけです。

発酵と腐敗は何が違う?塩分濃度が果たす役割

魚醤と腐った魚、何が違うのか気になったことはありませんか?その答えは、塩分濃度にあります。

魚醤は仕込みの段階で20〜30%程度という、かなり高い塩分濃度に設定します。この濃度になると、腐敗の原因となる多くの雑菌は塩分の浸透圧に耐えられず、増殖できなくなるんです。一方で、魚自身の消化酵素や、塩分に強い一部の微生物(耐塩性菌)だけは活動を続けられるため、腐敗ではなく発酵という方向に進んでいきます。

ぬか漬けや梅干しも、同じように高い塩分濃度で保存性を高めていますが、魚醤の場合はそこに魚のタンパク質分解という工程が加わる点が特徴的です。塩分濃度が低すぎると、雑菌の増殖を抑えきれず、本当に腐ってしまうこともあるので注意が必要です。

つまり塩分濃度は、単なる味付けではなく、発酵という現象そのものを成立させるための、いわば「安全装置」の役割を果たしているわけです。

魚醤の独特な匂いの正体と、気にならなくなる使い方

魚醤特有のあの匂い、正直「これは腐ってるんじゃ…」と身構えてしまう方も少なくないと思います。ですが、あの匂いはタンパク質やアミノ酸が分解される過程で生まれる、発酵ならではの香り成分によるものです。

具体的には、魚のタンパク質に含まれる成分が分解される際に、トリメチルアミン(魚特有の生臭さのもとになる揮発性の成分)などが生まれ、これが独特の匂いのもとになります。ナンプラーやしょっつるを開封したときに感じる、あのツンとした香りの正体がこれなんですよね。

実際に現場でナンプラーを扱ってきた感覚で言うと、この匂いは加熱すると大きく和らぐ性質があります。炒め物や煮込み料理に使えば、香りの多くは調理の過程で飛んでいきますし、にんにく・生姜・レモンなどの香味野菜や酸味と組み合わせると、匂いはぐっと気にならなくなります

匂いを無理に消そうとするより、加熱や合わせる食材との相性を活かして使いこなす方が、魚醤の魅力を引き出せると私は思っています。

魚醤の種類による発酵方法の違い|しょっつる・いしる・ナンプラー

日本三大魚醤の違い(しょっつる・いしる・いかなご醤油)

日本には秋田県の「しょっつる」、石川県の「いしる(いしり)」、香川県の「いかなご醤油」という、三つの代表的な魚醤があります。

しょっつるは、秋田の郷土料理「しょっつる鍋」でも使われる通り、主にハタハタを原料にしています。塩味はしっかりしていますが比較的クセが少なく、汁物に馴染みやすい味わいが特徴です。

いしる(能登地方では「いしり」とも呼ばれます)は、いかの内臓やいわしを主原料にした魚醤で、しょっつるよりもコクと香りが強めに出る傾向があります。いか主体のものは特に濃厚な旨味を持ち、能登の郷土料理「いしり鍋」などに使われてきました。

いかなご醤油は、瀬戸内海で獲れる小魚・いかなごを原料にした魚醤で、他の二つに比べて甘みとまろやかさを感じやすいのが個性です。原料になる魚が変われば、これだけ味の方向性が変わってくるというのは、調理師としても面白いところだと感じます。

ナンプラーとの違いは?原料と熟成期間で読み解く

日本の魚醤と並んでよく名前が挙がるのが、タイの「ナンプラー」です。原料はカタクチイワシと塩が中心で、基本的な作り方は日本の魚醤と大きく変わりません。

違いが出るのは、熟成期間と気候です。タイのような高温多湿な地域では発酵のスピードが速く進むため、数ヶ月から1年程度で仕上がるものが多く見られます。一方、日本のしょっつるやいしるは涼しい気候の中でじっくり1〜2年、長いものでは3年近くかけて熟成させることも珍しくありません。熟成期間がこんなに違うと聞くと、少し意外に感じませんか?

熟成期間が短いナンプラーは香りが華やかで塩味も比較的マイルドに感じられる一方、長期熟成させる日本の魚醤はより濃厚でコクのある味わいに仕上がる傾向があります。だからこそナンプラーはエスニック料理の風味付けに、しょっつるやいしるは和食の隠し味にと、使われ方にも違いが出てくるわけです。

【比較表】原料・発酵期間・塩分・味の傾向で見る魚醤

これまでの内容を、表にまとめて整理しておきます。

種類主な原料発酵期間の目安塩分濃度の目安味・香りの傾向
しょっつる
(秋田)
ハタハタ半年〜1年約20%クセが少なく汁物になじみやすい
いしる
(石川・能登)
いか・いわし1〜2年約20〜25%コクと香りが強め、濃厚な旨味
いかなご醤油
(香川)
いかなご半年〜1年約20%甘みとまろやかさを感じやすい
ナンプラー
(タイ)
カタクチイワシ数ヶ月〜1年約20〜25%香りが華やかで塩味はややマイルド

あくまで一般的な目安としてまとめていますが、同じ種類の魚醤でも作り手によって発酵期間や塩分濃度は変わってきます。実際に選ぶときは、原材料表示にある熟成期間や塩分の記載も、ぜひチェックしてみてください。

魚醤は体に良い発酵食品?栄養と健康面をプロが解説

魚醤は魚由来のアミノ酸を豊富に含む発酵調味料ですが、同時に塩分がかなり高い調味料でもあるため、量を意識した使い方が大切なポイントになります。

発酵の過程で魚のタンパク質がアミノ酸に分解されているため、魚醤にはグルタミン酸をはじめとした旨味成分に加え、必須アミノ酸も含まれています。麹を使う味噌や醤油とは違うルートで発酵が進むため、乳酸菌の働きが加わる製品もあり、腸内環境への影響について研究が進められている分野でもあります(効果を断定するものではなく、あくまで研究段階の情報として捉えてください)。

一方で見逃せないのが塩分の高さです。魚醤の塩分濃度はおおよそ20%前後にもなり、これは一般的な濃口醤油(塩分約16%前後)よりも高い数値です。厚生労働省が示す食塩摂取量の目安(成人男性で1日7.5g未満、女性で6.5g未満)を踏まえると、魚醤は「たくさん使う調味料」ではなく「少量で旨味を足す調味料」として捉えるのが現実的だと私は思います。

調理師
調理師

現場でも、魚醤やナンプラーはドバドバとかけるのではなく、小さじ1杯程度を隠し味として使うのが基本です。旨味が強い分、少量でもしっかり効いてくれるので、むしろ塩分を抑えながら味を決められる調味料とも言えるんですよね。

体に良いかどうかを一概に断定することはできませんが、発酵由来のアミノ酸を含みつつ、使い方次第で塩分をコントロールできる調味料として、上手に付き合っていくのが良さそうです。

調理師が教える魚醤の使い方と代用のコツ

隠し味・塩の代わりに|加熱で変わる香りの活かし方

先ほどの章でも触れた通り、魚醤は加熱することで匂いが穏やかになり、旨味だけが料理に残ります。ここでは、具体的にどんな場面で使うと効果的か、調理師目線でご紹介します。

一番使いやすいのは、炒め物や煮物で「塩」の代わりに使う方法です。チャーハンや野菜炒めの仕上げに、塩ひとつまみの代わりに魚醤を小さじ1/2ほど加えるだけで、コクと奥行きのある味わいに変わります。豚汁や鍋のだしに数滴垂らすのもおすすめで、いつもの醤油や味噌に頼らない、新しい旨味の層を作れるんですよね。

卵焼きやだし巻き卵に少量加えると、卵の甘みと魚醤の旨味が合わさって、料亭のような奥深い味わいに近づきます。洋風の料理でも、パスタのアンチョビ代わりや、ドレッシングにひとたらし加えると、いつもの味に厚みが出ます。

調理師
調理師

分量の目安としては、塩や醤油を小さじ1使うところを、魚醤なら小さじ1/2程度から試してみてください。旨味が強いので、思っているより少量で十分に効いてくれます。

魚醤がないときの代用は?ナンプラーや醤油で代える方法

自宅に魚醤がないとき、代わりになるものがあると助かりますよね。一番近い代用品は、同じ魚醤の仲間である「ナンプラー」です。原料も製法もほぼ同じなので、分量もそのまま1:1の感覚で置き換えて問題ありません。

和食のレシピでナンプラーの匂いが気になる場合は、醤油をベースに、みりんや砂糖を少量足すことで、魚醤に近いコクを補うことができます。ただし醤油は大豆由来の旨味、魚醤は魚由来の旨味なので、風味の系統そのものは完全に同じにはなりません。あくまで「近づける」代用だと考えておいてください。

和風の汁物であれば、白だしやめんつゆで代用する方法もあります。魚醤ほどの独特な発酵香はありませんが、旨味と塩気のバランスは近い仕上がりになるので、匂いに抵抗がある方にはこちらの方が使いやすいかもしれません。

どの代用品にも一長一短があるので、料理のジャンルや、どんな風味を残したいかによって、使い分けるのが賢い選択だと私は考えています。

魚醤を手作りしてみたい人へ|プロが伝える注意点

魚醤は、実は家庭でも作れる発酵調味料です。ただし、成功させるにはいくつかの注意点があるので、プロの視点から知っておいてほしいポイントをお伝えします。

結論から言うと、家庭で作る場合も塩分濃度は20%以上をしっかり守ることが大前提です。市販の魚醤よりも塩分を控えめにしたくなる気持ちは分かりますが、塩分を下げすぎると腐敗菌の増殖を抑えられず、食中毒のリスクが高まってしまいます。「手作りだから優しい味に」という考え方は、魚醤に関しては通用しないんですよね。

具体的には、新鮮な小魚(イワシやアジなど)に対して重量比で20〜30%の塩をまんべんなくまぶし、密閉容器に入れて冷暗所で保存します。定期的に容器を開けて状態を確認し、清潔な道具を使うことも雑菌の混入を防ぐうえで欠かせません。半年〜1年ほど経つと、徐々に琥珀色の液体が上がってきます。

失敗の見分け方としては、明らかに腐敗臭が強い、カビが生えている、色が黒っぽく濁っているといった場合は、残念ながら廃棄が安全です。発酵が順調に進んでいれば独特の香りはあっても、どこか旨味を感じさせる「食欲をそそる匂い」に近づいていきます。

もし「発酵の仕組みそのものをもっと体系的に学んでみたい」「魚醤だけでなく発酵食品全般に詳しくなりたい」という方は、発酵食のスペシャリストを目指せる資格について詳しくまとめた記事もありますので、興味のある方はあわせてご覧ください。

魚醤の発酵に関するよくある質問

Q
魚醤は発酵食品ですか?
A

はい、魚醤は発酵食品です。魚のタンパク質が、魚自身の消化酵素や微生物の働きによってアミノ酸に分解される、味噌や醤油と同じ仕組みの発酵調味料なんですよね。原料は魚と塩だけなので、見た目以上にシンプルな発酵食品だと言えます。

Q
魚醤の匂いは腐っているのですか?
A

いいえ、腐敗ではありません。あの独特な匂いは、タンパク質が分解される過程で生まれる香り成分によるもので、発酵が正常に進んでいる証拠でもあります。加熱したり、香味野菜や酸味と組み合わせたりすると匂いは和らぐので、気になる方は少量から試してみてください。

Q
魚醤は自分で手作りできますか?
A

可能ですが、塩分濃度の管理が成功のカギを握ります。塩分を20%以上しっかり保たないと腐敗菌の増殖を抑えられず、食中毒のリスクが高まるため注意が必要です。衛生管理に自信がない場合は、まずは市販品で発酵の味わいを楽しんでみるのも一つの方法ですよ。

まとめ|魚醤の発酵を知れば、発酵食品の世界はもっと面白い

魚醤は、魚のタンパク質が発酵によってアミノ酸に変わる、味噌やぬか漬けと同じ仲間の発酵食品です。しょっつる・いしる・ナンプラーは、原料の魚や熟成期間によって味も匂いも個性豊かに変わります。匂いの正体を知れば、加熱や食材の組み合わせで上手に活かせるはずです。ぜひ一本、普段の料理に取り入れてみてください。

もっと発酵食品の世界を深く学んでみたいという方は、こちらの記事もぜひあわせてご覧ください。→発酵食美インストラクターの口コミ・評判|怪しい?資格の価値を調理師が本音で解説

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この記事を書いた人
現役の和食調理師/おかだ けんいち(調理歴25年以上)
和食の世界で25年以上。旬の食材や家庭でできる調理のコツを、やさしく、わかりやすくお届けしています。料理がもっと楽しく、おいしくなるきっかけになれば嬉しいです。
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